2019年10月14日月曜日

2019年10月6日

2019年10月6日 聖霊降臨節第18主日礼拝説教要旨
  「人間に戻る」 桜井希牧師
    マタイによる福音書 14:13~21節
物語は人里離れたところで休もうとされたイエスを追って、大勢の群衆がやって来るところから始まります。「女と子供を別にして、男が五千人ほど」とありますから、実際は一万人を超えていたでしょうか。その中には病人がいて、病人を連れて来た家族や友人がいたはずです。そうした人々を前に、イエスは病人を癒し始めたのでした。病人の列は途切れることがありません。日はかげり、夕暮れ時となりました。傍らにいる弟子たちは、群集が疲れ果て空腹のまま置かれていることを重々知っていました。もちろん自分たちもお腹がすいてきたはずです。しかし、お腹をすかせた人々を前にして自分たちだけが五つのパンと二匹の魚を食べるわけにもいかない。そこで弟子たちはイエスの活動を止めさせ、群集を解散させようとようとします。それに対してイエスは言うのです。「あなたがたが彼らに食べる物を与えなさい」と。
 自分が持っているものや能力ではどうすることもできない現実がある。そうであれば、目の前の現実をなくしてしまえばいいのです。群衆にはそれぞれの責任でなんとかしてもらうしかない。彼ら彼女らの空腹は自分たちの責任ではないからです。もちろん弟子たちだって、最初は群衆を見て「かわいそうに」と思っていたはずです。しかし彼らは、事が我が身に及ぶと、自分にはそんなことできないと逃げようとします。
 そのような弟子たちに、イエスは自分の手で食べ物を配るよう命じます。それは目の前の人々を「大勢」として一括りにしていた彼らを、その一人ひとりと出会わせるためではなかったかと思うのです。食べ物を配りながら、弟子たちには一人ひとりの苦しみや悲しみが見えてくる。パンをもらって喜ぶ子供の顔、泣きやむ赤ちゃんの顔、安心する親の顔、そこには感謝と喜びの出会い、ひと時の交わりがあったことでしょう。弟子たちにしてみれば、群集は「人数」から「人間」に戻ったのではないでしょうか。いやむしろ、弟子たちが人間に戻ったと言うべきでしょう。「あなたがたが彼らに食べる物を与えなさい」というイエスの言葉は「ここにはパン五つと魚二匹しかありません」と言って立ちすくむ私たちに、人と出会う勇気を与えてくれるのではないでしょうか。

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