2022年2月3日木曜日

2022年1月30日

 2022年1月30日 降誕節第7主日礼拝説教要旨

 「あなたが大事」 一木千鶴子牧師

   ルカによる福音書 19:1−10節

 小学4年生か5年生の頃、「クォヴァディス」という小説を読みました。クリスチャンを激しく迫害したネロ皇帝時代のローマが舞台の小説です。そのような時代にローマの青年貴族が、クリスチャンの女性に恋をする、その恋愛を中心に物語は進みます。今はもう主人公の名前もうろ覚えですが、それでも鮮やかに心に残っている場面があります。それはペトロが激しい迫害の都ローマから逃れてきた旅の途中で、復活のキリストに出会う場面です。ペトロは「クォヴァディス・ドミネ」(主よ、いずこへ)と尋ねます。すると主イエスは「あなたが逃げ出してきたローマへ、もう一度十字架にかけられるために。」と答えられました。それを聞いたペトロは来た道をローマへと帰って行く、そんな場面です。その場面は、中学生になって教会に行くようになってからも、洗礼を受けてからも、ずっと私の心にありました。特に牧師になってからは「クォヴァディス・ドミネ」(主よ、いずこへ)という問いは、私の切実な問いとなりました。

 関西労働者伝道委員会の専従者は、長く日雇い労働者の町釜ヶ崎での支援活動を続けてきました。釜ヶ崎での支援活動は、労働者の「俺たちも人間や」という叫びに呼応して行われています。イエスが、無視され、差別され、疎外されている一人ひとりに出会い「あなたは大事な人」と、神の愛を伝え、その人の人間性を回復してくださったように、この時代の中で「あなたも大事な人」と伝えることは、教会の伝道そのものだと考えています。

 ザアカイは、そんなイエスとの出会いを経験した一人でした。徴税人の頭であったザアカイは、憎いローマの手先であり、裏切り者と思われていました。また不正な取り立てをしていたようです。そんなザアカイが住むエリコの町にイエス一行がやって来られました。一目見ようと多くの人たちが沿道に集まっていました。群衆に遮られて見ることができないザアカイは、いちじく桑の木に登りました。木の上からイエスを見下ろすザアカイ、そんなザアカイにイエスは下から声をかけられました。「ザアカイよ、降りて来なさい。今日はぜひあなたの家に泊まりたい。」と。喜んでイエスをもてなすザアカイは自ら言いました。「財産の半分を貧しい人たちに寄付します。もし誰かからだましとっていたらそれを4倍にして返します」と。イエスが、一人の人間として向き合ってくださったこと、友だちとして接してくださったこと、それがザアカイにとってどんなに大きな喜びだったか、そのことが、ザアカイの本来の優しさや人間性を引き出したのでしょう。今日、出会う一人ひとりに「あなたが大事」と伝えることができますように。


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